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広島高等裁判所岡山支部 昭和24年(を)261号 判決 1950年11月22日

被告人

赤枝健一

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金五千円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金百円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

押収の葉煙草四瓩五百瓦(証第一号)は、これを沒収する。

当審における訴訟費用は、全部被告人の負担とする。

理由

弁護人森末繁雄の控訴趣意第一点について。

(イ)(ロ)所論は、被告人が判示葉煙草を政府に納付せず、被告人方に残して置いたがそれは被告人が判示葉煙草を自喫することを許されたと信じて残して置いたもので、且つ斯く信ずるにつき正当な理由があつた旨主張する。しかし記録を精査してみると、該主張に副うが如き被告人の検察事務官に対する供述部分や原審並びに当審における被告人の供述部分は措信し難く、被告人の右各供述部分を除くその余の原審及び当審において取調べた全証拠資料に徴すれば、寧ろ、被告人は、葉煙草耕作者は耕作した葉煙草全部を政府に納付すべきで、たとえその一枚でも残すことは禁じられていることを知悉していたが、判示年度が初めての耕作であり、判示葉煙草は被告人に対する収納命令以上に政府に納付した残余の葉煙草であつたから、それが本葉や芽葉ではあつたが、これを納付せず自喫してもあるいは大目に見てもらへるものと考へて自宅に蔵置したものと認むべきである。元来、犯罪の成立要件である犯意は、事実の認識とともに違法の認識を要するが、この場合違法の認識は、未必的な認識を以て足るものと解すべきで、これを本件についてみるに、以上説示したように、被告人に事実の認識の外少なくとも未必的な違法の認識があつたことが認められるから、右主張は到底認容できない。尚又、煙草専売法は、明治三七年に制定せられたもので、同法により何人も法定の除外事由なく政府に納付すべき葉煙草を他に讓渡、讓受し又は、消費、隠蔽することを禁止せられていることは、既に本件犯行当時一般周知の国民常識であるから、所論の如く同法違反が所謂法定犯であるとする見解を採つても、同法の不知を主張する所論は、採用の限りでない。従つて、犯意の阻却事由を主張する論旨は、いずれの点からみるもその理由がなく、原判決がその挙示の証拠によつて判示事実を認定し、犯意阻却事由を認めなかつたのは正当である。

(註 本件は量刑不当により破棄自判)

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